辻希美を綴る５冊

電撃的に発表された辻希美と加護亜依の卒業。次代を担うと目されていたモーニング娘。のツートップ卒業の報せは、多くのファンに大きな驚きと、期待以上の不安を与えたに違いない。

在籍年数こそ短いものの、その存在感は歴代の卒業メンバーと比べてもひけを取らない。注がれた愛情の大きさと成長の度合いは、まさしく『娘。の中の娘。』と呼ぶに相応しい存在である。つくづくつんく♂の最大の功績は、モーニング娘。を作ったこと以上に、同年代のこの二人の天才を同時に見出したことではないかと思うのだ。

今回は "ののたん" の愛称で知られる辻希美が、モーニング娘。で残してきた足跡を綴った５冊を紹介する。

オーストラリアのハミルトンアイランドで撮影された、モーニング娘。としては３冊目となる写真集。加入後間もない四期メンバーはもちろんのこと、他のメンバーもまだあどけなさが残る。（中澤以外）

『娘。たちの少し遅い夏休み』そんなイメージだろうか。しかしアイドル写真集にありがちなプロマイド的なものではなく、１つ１つのショットに当時の「空気感」がうまく封じ込められており、あたかもそれは「モーニング娘。という名の物語」の一部分を切り取ったかのようである。それ故にこの写真集が時を経るに従って、見る者の中で洗練され、郷愁の念と共に非常に崇高なものに感じられるのだろう。

辻希美の成長がいわれて久しいが、この時期の彼女が見せる純真な笑顔に脳をやられた人間は多い。今も変わらぬ笑顔を見せてくれる彼女に感謝しながら、いつも枕元に置いておきたい一冊である。

『今”やりたいこと”があるとすると、それは”モーニング娘。にいたい”ってことだから』

本書は当時１５人だった娘。たちの言葉を捉えたインタビュー集である。つんく♂をして「イチローになる可能性」と言わしめた辻希美のポテンシャルは、モーニング娘。やミニモニ。では勿論のこと、おとめ組、加護亜依との新ユニット『Ｗ（ダブルユー）』でも徐々にその真価を発揮しつつある。

モーニング娘。になる夢が叶い、モーニング娘。そのものであった先輩達も次々と去っていった。もはや彼女にとって "そこ" は、憧れていたかつての場所ではなくなってしまったのかもしれない。ファンとしては寂しいが、夢に追いつくための大変さを誰よりも知っている彼女だからこそ、今はその夢を応援したいとも思う。

「今やりたいことは？」

果たして今なら何と答えるだろうか？悪戯っぽく笑いながら答える彼女の顔が目に浮かぶ。

フジテレビの敏腕プロデューサーで知られるきくち氏との対談記事。氏の彼女への溺愛ぶりは、ファンの間では最早伝説と化した『緊急中澤ＳＰ』が如実に物語っている。そして職権濫用も甚だしいこの記事のページ番号は「２２」。まさに変態の所業と言わざるを得ない。

家庭や社会的地位もある人間の心をここまで狂わせてしまう力、これこそが彼女の持つ奇跡の一端であることは言うまでも無い。

辻希美の作品として『魔法の１０個のキャンディ』が収録されている。親切にしたおばあさんや友達のモモちゃんなどから貰った、夢を叶えてくれる魔法のキャンディ。１０個目のキャンディを風邪を治すために使った後は、もうそれ以上増えることは無かった…。そんな物語を彼女は最後にこう結んでいる。

『でも、私はめげてません。これからいろいろ研究をして、魔法のキャンディを自分で発明したいと思っています。そして、たくさんの人に夢を分けてあげたいと思っています。』

かつては多くの愛情に守られ、見上げることしか出来なかった彼女が口にしたたった一つの決意。夢のために費やしてきた数え切れないほどの時間と、流した汗と涙は、やがて新たな夢を紡ぎはじめる。

彼女の進む道を共に歩めるのならば、それはまさしくファンの本懐ではないだろうか。モーニング娘。卒業という大きな節目を迎えた今こそ、大いなる奇跡、辻希美に心からの感謝と愛を！

辻希美という奇跡が世界に問い掛けた問題作。

人の心には、ののの形をした空洞があるのである。